大阪地方裁判所 昭和58年(ヨ)545号 決定 1988年3月15日
申請人
谷口好彦
同
宮武章治
同
森本正三
同
武友芳雄
同
南川正美
右五名訴訟代理人弁護士
中北龍太郎
同
北本修二
同
谷野哲夫
同
三上陸
同
川崎伸男
被申請人
株式会社日刊オフセット(旧商号大阪オフセット印刷株式会社)
右代表者代表取締役
鮎川功
右訴訟代理人弁護士
中筋一郎
同
竹林節治
同
中祖博司
同
益田哲生
同
荒尾幸三
同
畑守人
同
中川克己
同
爲近百合俊
同
福島正
主文
一 申請人らの本件仮処分申請をいずれも却下する。
二 申請費用は申請人らの負担とする。
理由
第一当事者の求めた裁判
一 申請の趣旨
1 被申請人は、申請人谷口好彦及び同宮武章治をそれぞれ被申請人の従業員として仮に取り扱え。
2 被申請人は、昭和五八年二月一四日以降本案判決確定に至るまで毎月二五日限り、申請人谷口好彦に対し月額金一八万二二〇〇円の、同宮武章治に対し月額金二一万三六一七円の各割合による金員をそれぞれ仮に支払え。
3 被申請人は、申請人森本正三に対し金六万八九三一円、同武友芳雄に対し金九万三八九六円、同南川正美に対し金八万二二三〇円をそれぞれ仮に支払え。
4 申請費用は被申請人の負担とする。
二 申請の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当裁判所の判断
一 当事者
当事者間に争いのない事実、疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すれば、本件の当事者の関係は以下のとおりであることを一応認めることができる。
1 被申請人は、大阪日刊印刷株式会社が昭和六一年一二月二三日、大阪オフセット印刷株式会社(以下大阪オフセット又は会社ともいう。)を吸収合併し、同日、商号を肩書のとおりに変更登記した株式会社である。
2 大阪オフセットは、主として朝日新聞の多色刷り日曜版のうち名古屋以西配布の分を印刷することを目的として、株式会社朝日新聞社と大日本印刷株式会社の共同出資により昭和四三年八月一九日に設立された株式会社である。
3 申請人宮武章治(以下宮武という。その余の申請人についても以下姓のみで表示する。)は昭和四八年に、その余の申請人らは遅くとも昭和五七年の年末までに、大阪オフセットからいずれも期間の定めなく雇傭され、昭和五八年の初頭には、森本は資材管理係において、その余の申請人らは印刷課において、それぞれ勤務していた。
4 大阪オフセットの従業員らは、昭和四八年一〇月二〇日ころ大阪オフセット印刷労働組合(以下組合という。)を結成し、同五〇年一一月ころからは殊に活発な組合活動を展開してきたが、申請人らはいずれもその熱心な活動家であり、就中、宮武は、昭和五二年に組合書記長に就任して以来、後記の本件解雇当時にも継続して同書記長の職に、南川は後記懲戒処分当時執行委員の職にあった。
二 本件懲戒処分の意思表示
当事者間に争いのない事実、疎明資料及び審尋の結果によれば、以下の事実を一応認めることができる。
1 大阪オフセットは、その従業員を対象として別紙「就業規則条項(抄)」を制定し、昭和五〇年一一月二一日からこれを施行していたが、申請人らはその適用を受ける立場にあった。
2 大阪オフセットは、昭和五八年二月一四日、左記の理由により、宮武及び谷口に対し、懲戒解雇の意思表示をし(以下本件解雇という。)、その余の申請人らに対し、同日から同月二三日までの一〇日間その就業を禁止するとの意思表示をした。
記
<省略>
三 本件解雇の効力
そこで、まず、本件解雇の効力―宮武及び谷口に対する解雇事由の存否―について判断する。
1 本件解雇に至るまでの経緯
当事者間に争いのない事実、疎明資料及び審尋の結果を総合すれば、本件解雇に至るまでの経緯は以下のとおりであることを一応認めることができる。
(一) 大阪オフセットでは、昭和五三年度ころから同五七年九月ころまでの間に生産量、生産能率とも漸次低下傾向をたどり、これらにつき、同五三年度の指数を一〇〇とすると、同五七年九月には生産量指数が八八・一、生産能率指数が九一・一となっており、逆にその間の組合員平均基本給指数(指数基準は右同)は一五〇に、また、売上げに占める人件費も四五%(同五三年度)から五四%(同五七年九月)にそれぞれ増加し、これらからすると同五八年初頭には、同五七年度(同年四月から同五八年三月)の収益が前年度比において半減し、同五八年度には赤字に転落するのではないかとの見通しがもたれるに至った。
(二) 他方、昭和五二年初頭ころ、大阪オフセットは、朝日新聞社の要請により、同紙日曜版増頁印刷を実施しようとしたが、勤務変更、人員補充等について組合の同意が得られず、これをめぐって労使紛争が発生した。その後、同年六月に至り、労使の合意により右紛争は、一応の収束をみたものの、その後間もなくから、同五七年末ころまでの間に印刷職場では、現場従業員と職制との力関係もあって、(ⅰ)一部の従業員が機付の人員数等により職制に無断で輪転機の回転速度を減速させる、(ⅱ)勤務時間中に職制に無断で交替により休憩をとる、(ⅲ)勤務終了の約三〇分前から機械を停止し、勤務時間内に入浴をする、(ⅳ)各班の内部で独自にローテーションを組み、職制に無断で勝手に持ち場を変更、交替するなど、企業の円滑な秩序ある運営が阻害される事態がまま生じ、印刷職場のモラルのバロメーターとなるべき月間の損紙率(一〇〇部印刷するにつき生じる損紙の割合)も、昭和五六年一〇月からは三パーセントを超える月が続くようになった。
(三) 以上の事態に鑑み、大阪オフセットでは、同社長(以下、大阪オフセットの役員、職制については、その地位のみを表示する。)が、昭和五八年一月四日(なお、以下では特にことわりのない限り昭和五八年については年号の記載を省略する。)の年頭の挨拶において、全従業員に対し、「経済的不況下での会社の経営内容の悪化に伴い、経営体質の改善、生産性の向上、納期に関する発注者からの不信感への対応等について具体案を検討中なので、成案になり次第、全従業員に示し、組合とも話し合う」との趣旨を述べて、職場規律の厳正化と企業秩序の維持により、受注を確保し、業績の低下を防ごうとする姿勢を示した。
(四) これに対し、組合は、右の社長年頭挨拶は生産性の向上と納期不安の解消とを強調し、組合敵視政策をとって労働条件切り下げの方向を打ち出したものであるとして、同月六日、右挨拶の撤回などを要求内容とする団体交渉の開催を申し入れたが、大阪オフセット側では右は団交事項とならないとしてこれを拒否したので、大阪オフセットと組合の間では、以後、団交を開催するか否かをめぐって深刻な対立が生じた。
(五) 右の対立の中、大阪オフセットでは、職場規律改善の具体案をまとめ、一月一七日、組合に対し、同月二四日から以下の五項目(以下五項目改善案という。)を実施したいとの通告をし、あわせて、以後印刷課を二課制とする旨の機構改革並びにこれに伴う人事の異動(具体的には二名の新職制の採用及び印刷課への配置)を発表した。
記
(1) 入浴は勤務時間外にすること(勤務時間中の入浴の禁止)
(2) 就業規則で定められた休憩時間以外に休憩が必要になる場合は職制の承認が必要である。(無断交替休憩の禁止)
(3) 輪転機の速度調整は職制の指示によること(無断減速の禁止)
(4) 人員配置、ローテーションは職制の指示によること(無断人員配置の禁止)
(5) 欠勤、遅刻、早退など出退勤管理の厳正化
(六) 五項目改善案の通告及びその実施をめぐっては、大阪オフセットと組合の間で一月一八日、同月二〇日及び同月二二日の三回にわたって団体交渉が開催された。
(1) 一月一八日の団交では、大阪オフセット側は、右の五項目はいずれも労働条件の問題ではなく、合意も協議も必要な事項ではないが、実施までに十分な話合いを持ちたいとの立場から、職場規律の厳正化により確固たる生産管理体制を敷き、よって生産性を向上させたいとして、五項目改善案の趣旨を説明しようとした。しかし、組合側では、社長年頭挨拶に関して団交が開催されなかったことや、人件費の高騰を問題としながら新しく四人もの職制が導入されたこと等について反発が強く、当初から厳しい対立の姿勢を示したので、交渉はなかなか本題に入ることができず、本題に入っても、五項目改善案の内容が組合の主張するように労働条件の変更にあたるか否かについては、議論が平行線をたどった。なお、組合は、この日の団交終了後組合大会を開き、(ⅰ)一月一七日付の新管理職採用は、大阪オフセットと組合の間の昭和五二年六月六日付協定第三項(「会社は従業員の雇傭に当り、組合の組織弱体化につながるような採用政策は行なわない。」とするもの)等に反しており無効である。(ⅱ)五項目改善案の「改善」は慣行として確立された職場の労働条件、権利を一方的に剥奪するものであり、同協定第二項(「組合員の勤務体制変更並に組合員の労働条件に変更がある場合は事前に労使協議を行った上決定する。」とするもの)等に反するから、これに基づく職制の指示は無効であるとの決議を行った。
(2) 同月二〇日の団交も、その前日に大阪オフセットが従前の組合の強硬な団交申入れを業務妨害であるとして厳正な処分をなす旨通告したことから、これをめぐって紛糾し、なかなか本題に入ることができず、ようやくにして本題に入っても、五項目改善案が前記協定等にいう労働条件の変更にあたるか否かをめぐっては、組合が前記組合大会の確認決議の線を崩そうとしなかったので、議論は平行線をたどった。なお、この日の団交は、本題に入って間もなくの時点で、組合側から支援共闘団体との話合いがあるとして一方的に打ち切られた。
(3) 同月二二日の団交では、事前に組合から何故に五項目改善案が労働条件の変更にあたると考えるかにつき通告書が提出されていたこともあり、大阪オフセット側からも、通告した五項目改善案については修正の余地もあるとの姿勢が示され、そのための意見を述べてもらいたいとの申出もなされたが、組合は、労使協議が合意に達するまでは一月二四日からの実施は延期すべきであるとの意見に終始し、休憩後になされた、大阪オフセット側の、「入浴等のための整備時間として一五分間分の賃金を手当として支給する」との提案も、これを拒否したので、ここに団交はついに決裂のまま終わった。
(七) その後大阪オフセットは、一月二四日から五項目改善案を実施することとし、同日の課会においてその細目を明らかにして従業員に対してその実施を求めたが、申請人らを含む組合員のうち、主として当日勤務外の者らは、前記の組合大会の決議の趣旨から、これを無視し、従前どおり時間内入浴等を確保しようとして、これを禁止しようとして機械を停止しないよう指示をする職制らと激しい衝突を繰り返したほか、新職制による印刷機を用いた業務研修についても該人事を無効とする立場からこれを妨害し、さらには、集団で強いて団体交渉を求めて職制の職場巡視の業務を妨害するなどしたため、大阪オフセットの職場は以後激しい混乱状態に陥った。
2 懲戒事由該当性
そこで、以下、被申請人の主張する具体的な処分理由について、その懲戒事由該当性を判断する。
(一) 宮武について
(1) 当事者間に争いのない事実に本件疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すると、一応次の事実が認められる。
<1> 一月五日午前一二時四五分ころ、当日勤務をしていた約二〇名の組合員とともに、その先頭に立って、大阪オフセットの事務所に集団で乱入し、松岡専務を取り囲むなどし、社長年頭挨拶に対する抗議及び団交申入れ名下に、机をたたいたりしながら、約一五分間にわたり、同専務らに怒号を浴びせるなどし、昼休み中ではあったが同事務所内で業務に従事していた松岡専務、三村取締役らの業務を妨害するとともに、会社の秩序を乱した。
<2> 同月六日午前一二時五〇分ころ、やはり当日勤務の約二〇名の組合員とともに、大阪オフセットの事務所に集団で乱入し、昼休み中とはいえ、会社の業務に従事していた福岡人事部長(当時は代理)を取り囲むなどし、やはり抗議及び団交申入れ名下に、同席していた南川において、机の上にあった辞書で同部長の机をたたくなどしながら、約一〇分間にわたって、同部長の耳元で「労務ゴロ」、「朝日へ帰れ」などと怒号、罵声を浴びせるなどし、会社の秩序を乱すとともに同部長の業務を妨害した。
<3> 同月一三日午後五時ころ、昼夜勤の交代の時間を利用して、約四〇名の組合員とともに、大阪オフセットの事務所に集団で乱入し、社長を取り囲むなどして、やはり社長年頭挨拶に対する抗議及び団交申入れ名下に、約二時間余りにわたって会社役員らに怒号、罵声を浴びせ、その間、社長の机に腰をかけ、テープレコーダーの有無の確認名下に無断でその机の引き出しを開ける等の行為に及び、会社の秩序を乱すとともに、役員らの業務を妨害した
<4> 同月一七日午前一二時三五分ころ、当日勤務の組合員約一五名とともに、その先頭に立って、大阪オフセットの事務所に押しかけ、突然の新職制導入に対する抗議及び団交申入れ名下に、新職制の耳元で大声をあげ、「労務ゴロ」、「朝日へ帰れ」等と罵声を浴びせ、会社の秩序を乱すとともに新入社員(職制)教育のため準備をしていた三村取締役等の業務を妨害した。
<5> 同日午前一〇時四五分ころ、印刷職場給紙部付近において、新任の内田課長と矢口係長が印刷機械について研修を受けようとしていた際、該人事に対する抗議名下に、同人らに付きまとってその研修を妨害し、その際、内田課長が近辺にいたのであるから、同人に当たるかもしれないことを認識しながら、あえて油と水がついて汚れたボロ切れを横に放り投げ、これに当たった同課長の作業ズボンを汚すなどして会社の秩序を乱した。
<6> 同日午後五時一〇分ころ、当日勤務の組合員約二〇名とともに、その先頭に立って、大阪オフセットの事務所に乱入し、残っていた職制らを取り囲み、団交申入れと抗議名下に、約一〇分間にわたり、「お前たち、職制として認めない。」、「朝日に帰れ。」などと罵声を浴びせ、会社の秩序を乱すとともに、その途中で岩田設備課長にかかってきた電話の聴き取りを不能にするなどして、職制らの業務を妨害した。
<7> 同月二一日午前九時ころ、小玉製作部長らが、印刷職場二階の壁に掲示されていた「職場の権利・慣行」と題する組合の掲示物(猶予期間を定めた撤去要求にもかかわらず自主的には撤去されなかったもの)を撤去しようとしたところ、これに抗議するとともに、他の勤務者にも集合をかけ、大声をあげたり、職制に体を寄せたりしてその撤去作業を妨害した。
<8> 同月二二日午前一一時ころ、小玉製作部長らが、前号の撤去にもかかわらず再度印刷職場の壁に掲示されたほぼ同一内容の組合掲示物を発見してこれを撤去しようとしたところ、勤務者及び非番でありながら職場に出てきていた組合員数名とともに、前号と同様の態様でその作業を妨害した。
<9> 大阪オフセットでは、一月二四日から五項目改善案が業務命令として実施されることになったが、これに対する抗議等の争議行為を展開するため、組合と大阪オフセットの協定により印刷職場の仮眠所(以下仮眠所という。)の使用については、夜勤者がその翌日の午前一二時までと定められているにもかかわらず、勤務時間外には仮眠所で待機することとし、これを発見した職制が退去の業務指示を出したのに対しても、左記の日時に、左記の態様で、これに反抗、妨害して、会社の秩序を乱した。
記
<省略>
<10> 大阪オフセットでは、一月二四日以降、勤務時間内入浴禁止の業務命令を実施するため、職制に無断で早期に印刷機械が停止されることのないよう、終業約四〇分前から職制が印刷機械のところに赴き、右停止がなされようとしたときはこれを禁止する業務指示を出すこととしたが、左記の日時に、勤務外であったにもかかわらず、約一〇名の他の組合員とともに、印刷機の操作盤の付近を取り囲み、大声をあげ、職制に体を寄せるなどして、職制が印刷機に近づいて前記の業務指示を出すことを妨害し、会社の秩序を乱した。
記
<省略>
<11> 大阪オフセットの従業員らは、一月二四日に勤務時間内入浴禁止の業務命令が発せられた後も、これを無視し、前号記載のとおり、勤務時間終了の約三〇分前には印刷機械を停止し、時間内入浴を強行しようとしていたが、左記の日時に、勤務外であったにもかかわらず(ただし後記(ⅱ)を除く。(ⅱ)は勤務中の行為)、風呂場前の入口付近において、勤務外の他の組合員とともに、職制に対してピケを張るなどして従業員らの時間内入浴を援助する行動をとり、右業務命令が実施されることを妨害して、会社の秩序を乱した。
記
<省略>
<12> 大阪オフセットでは、一月二四日から、五項目改善案を業務命令として実施することとしたが、職制らがその実施を確実ならしめるため、印刷職場に巡視に赴こうとしたところ、左記の日時に、いずれも勤務外であったにもかかわらず、左記の場所において、他の組合員とともに、職制に付きまとったり、周囲を取り囲んで牛歩をするなどしてその通行を妨害し、職制の職場巡視を困難ないし非能率ならしめてその業務を妨害し、会社の秩序を乱した。
記
<省略>
<13> 大阪オフセットでは、一月二八日午前八時三〇分から二号印刷機を使用してテスト刷りと新任職制研修を行うことを予定し、これを予め従業員らに告示していたが、当日は勤務外であったにもかかわらず、同日午前七時三〇分ころから約三時間にわたり、右機械の操作盤付近を占拠し、操作盤に近づいてくる職制を体で押し返すなどして右職制研修を不可能にし、会社の秩序を乱した。
<14> 同月二九日午前には、前日に引き続いて二号印刷機を使用してテスト刷り及び新任職制研修を行うことが予定されていたが、当日は勤務外であったにもかかわらず、約四〇名の組合員とともに、同日午前七時四五分ころから約一時間にわたって前号と同様の研修妨害行為を行った。
<15> 大阪オフセットでは、一月二四日に、「人員配置、ローテーションは職制の指示によること」として、以後は組合による無断人員配置を禁止する業務命令を発令し、二月一日以降の具体的な機付人員配置についてもすでにこれを発表していたが、職制らが二月一日以降これを実施すべく、業務指示を行うために印刷職場に赴いたところ、左記の日時に、左記の行為態様で、右業務指示を妨害し、会社の秩序を乱した。
記
<省略>
<16> 二月五日午前八時二〇分ころ、約二〇名の組合員とともに大阪オフセットの事務所に乱入し、ハンドマイクを使用して騒ぎたてるなどして、会社の秩序を乱すとともに、始業前の準備をしていた職制の業務を妨害した。
(2) 被申請人主張のその余の懲戒事由について、
<1> 被申請人は、一月一九日午前八時三五分ころ、印刷職場において新任職制の挨拶のため、職制が当日勤務の組合員に集合を指示したところ、大声をあげて組合員の集合を制止し、これを妨害したと主張し、本件疎明中(<証拠略>)には、右主張に副う疎明資料もあるが、他方、宮武か右日時場所において、二、三回大声をあげたことはあったが、その内容ははっきりしなかったとの疎明資料(<証拠略>)もあり、しかも、右疎明資料は同一人の作成にかかるものであるから、これからすると、右主張に副う疎明資料は、その部分に関して、疎明資料として措信できないし、他に、本件疎明上右主張事実を認めるに足りる的確な疎明はない。
右主張は理由がない。
<2> 同月二四日午前七時一〇分ころ及び同月二九日午前七時一〇分ころ、いずれも、職制が北通用門内の鉄扉を閉鎖しようとしたところ、財田とともに、乗用車を鉄扉の前に駐車させ、同乗用車の前に立ちふさがるなどして右閉鎖を阻止したとの主張については、本件疎明上、これに該当する事実を認めることができる。しかしながら、鉄扉閉鎖の目的、右行為による業務妨害及び秩序違反の程度については、本件疎明上これを認めるに足りる的確な疎明はない。
右主張は理由がない。
<3> 同月二四日午前八時四五分ころ、負傷した福岡部長が被申請人の社有車で病院に行こうとしたところ、他の組合員二名とともに後部座席に座ってこれを占拠し、同乗用車の発車を阻止したとの主張については、その主張の日時に、その主張の目的で社有車を運行しようとしたところ、宮武らが該自動車の後部座席に座っていたとの事実は一応認められるが、福岡部長の負傷の程度、乗用車発進阻止の時間、その程度、右行為による秩序違反の程度については、本件疎明上これを認めるに足りる的確な疎明はない。
右主張は理由がない。
<4> 同日午後八時三五分ころ、印刷職場で課会が招集されたにもかかわらず、他の組合員を指導してこれをボイコットしたとの主張については、後記(二)(1)<3>に認定するように、このときはそもそも谷口ら勤務外の組合員によって職制が印刷職場に入ること自体が妨害されているのであり、宮武の課会ボイコットの程度とその態様は何ら疎明されていないことも併せ考えれば、そもそも課会の召(ママ)集があったのかどうかについて疑問が生じる。
右主張は理由がない。
<5> 同月二八日午後二時一五分ころ、勤務外であるにもかかわらず、二号印刷機脇のテーブルの上に大の字になって寝そべり、職制の退去命令を無視し続けたとの主張については、疎明によればこれに該当する事実が一応認められ、これが施設管理権の侵害にあたることも認めることができるが、該行為が行われた状況、継続時間、これによる秩序違反の程度については、本件全疎明によってもこれを認めることができない。
右主張は理由がない。
<6> 同月三一日午前九時ころ、一号印刷機付近で現場巡視中の職制を勤務時間中であるにもかかわらず、他の組合員二名とともに同職制を取り囲み、罵声を浴びせ、約二〇分間にわたり、その通行を阻止してその業務を妨害し、会社の秩序を乱したとの主張については、その主張の日時場所において、約二〇分間にわたり職制の通行を阻止したことは、一応疎明されるが、右行為による業務妨害の内容及び程度並びに秩序違反の程度については、本件疎明上、これを認めるに足りる疎明がない。
右主張は理由がない。
<7> 二月三日午前八時三五分ころ、一号印刷機付近で内田課長が組合員佐々木から作業工票のことについて話を聞こうとしたところ、他の組合員を指揮して同課長を取り囲み罵声を浴びせるなどして会社の秩序を乱し、その業務を妨害したとの主張及び同月四日午前八時五〇分ころ、一号印刷機付近で内田課長が佐々木に作業工票のことで印刷事務所に来るよう指示したところ、中川及び右佐々木と共に同課長を体で押し戻し、大声をあげるなどして会社の秩序を乱し、その業務を妨害したとの主張については、疎明上単に伝聞の報告書があるのみで、行為の具体的状況、業務妨害の内容及び程度並びに秩序違反の程度については、本件疎明上、これを認めるに足りる疎明はない。
右主張はいずれも理由がない。
<8> 被申請人は、宮武は、上記認定の各行為を、組合の執行部として企図・指導し、他の者を教唆して該違法行為をなさしめたものであると主張するが、疎明資料によれば、宮武は、前記の各行為を、先頭に立ち、主導的に行ったものであることを認めることはできるが、本件疎明上、該行為を企図・指導し、教唆して他人にこれを行わしめたとまでは認めるに足りる疎明がなく、また、宮武が組合書記長の職にあったことから、直ちに右事実を推認することもできない。
右主張は理由がない。
<9> 被申請人は、前認定(1)<4>の日時場所において、宮武が職制の顔面に唾をはきかけたり、靴先を踏み付けたりする暴行を働いたと主張するが、本件疎明上、右事実を認めるに足りる的確な疎明はなく、かえって、本件疎明によれば、宮武が右日時場所で、小玉製作部長の顔前で大声を出していた際に、唾が同部長の顔に飛び、また、同部長の至近距離に居たため、宮武の靴が同部長の靴と接触したことがあったにすぎなかったことが一応認められるところである。
右主張は理由がない。
(二) 谷口について
(1) 当事者間に争いのない事実に本件疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すると、一応次の事実が認められる。
<1> 一月二一日午前一二時四〇分ころ、大阪オフセットの食堂前の通路において、当日勤務の組合員約二〇名とともに、松岡専務を取り囲み、団交申入れ名下に、その耳元で大声で怒声を発し、事務所に帰ろうとする同専務の通行を妨害するとともに、職制による同専務にかかってきた電話の取り次ぎを不可能にし、さらに事務所へ乱入して、同専務が電話をかけようとするのを不可能ならしめ、会社の秩序を乱すとともに、その業務を妨害した。
<2> 同月二四日午後七時二〇分ころ、小玉製作部長らが会社の掲示物の上に「今日も一日安全第一」と記載された組合の無許可ビラが貼られていたのを発見し、これを撤去しようとしたところ、約四〇名の組合員とともに同部長らを取り囲み、耳元で大声をあげるなどして、会社の秩序を乱した。
<3> 同日午後八時三五分ころ、職制が夜勤者に対して、五項目改善案を業務命令として実施すべく、その説明のための課会へ出席するよう指示をするため、印刷職場に入ろうとしたところ、勤務外であったにもかかわらず、他の組合員らとともに、これを取り囲み、罵声を浴びせるなどして職制の課会出席指示を妨害し、会社の秩序を乱した。
<4> 同日午後一一時ころ、二号印刷機の付近において、職制が検紙をしようとしたところ、勤務外であったにもかかわらず、約一五名の他の組合員とともに、罵声を浴びせながら同職制を取り囲み、検紙作業を妨害して、会社の秩序を乱した。
<5> 同日午後一一時五〇分ころ、印刷職場で刷本検紙をしていた職制に対し、他の組合員とともに、これを取り囲み、体を押しつけたり、罵声を浴びせるなどしてその業務を妨害し、会社の秩序を乱した。
<6> 同月二五日午前一時一〇分ころ、約一〇名の組合員とともに、(一)(1)<9>と同じ目的で印刷仮眠所を使用し、これに対して退去を命ずる職制の業務指示を無視した。
<7> 左記の日時、場所において、勤務外であったにもかかわらず、他の組合員とともに(一)(1)<10>記載と同様の職制に対する業務妨害行為を行った。
記
<省略>
<8> 左記の日時に、大阪オフセットの風呂場前入口付近において、勤務外であったにもかかわらず、約二〇名の他の組合員とともに、(一)(1)<11>記載と同様に業務命令実施妨害行為を行い、(ⅵ)では福岡部長の通行を妨害するなどの行為も行った。
記
<省略>
<9> 左記の日時に、勤務外であったにもかかわらず、大阪オフセットの事務所及び付近の廊下において、約二〇名の他の組合員とともに、(一)(1)<12>記載と同様の行為をし、職制の職場巡視を困難または不可能ならしめた。
記
<省略>
<10> 同月二八日午前七時三〇分ころから、他の組合員とともに(一)(1)<13>記載の研修妨害行為を行った(ただし、谷口は同日午前八時三〇分からは勤務時間)が、その際、自らの通常業務を行うと称して、同日午前八時三五分ころ、岩田設備課長らの制止を聞かず、コンプレッサー室に入ってメインスイッチを切ったり入れたりし、さらには巻き取り用紙を資材倉庫から取り出して二号輪転機に装着したりもした。
<11> 同月二九日午前七時四五分ころから、他の組合員とともに、(一)(1)<14>記載の研修妨害行為を行ったが、その際、二号印刷機操作盤前の椅子に座っていた職制に身体を寄せ付けて、これを追いたてたりもした。
<12> 左記の日時に、印刷職場において、勤務外であったにもかかわらず、他の組合員とともに、左記の行為態様で、(一)(1)<15>記載の業務指示妨害行為を行った。
記
<省略>
<13> 二月二日午後二時一〇分ころ、他の組合員とともに、大阪オフセットの印刷休憩室を占拠し、これに対してなされた勤務外の者は退去するようにとの職制の指示を無視するとともに、右業務指示を妨害して、会社の秩序を乱した。
<14> 同月四日午前四時三〇分ころ、職制が二号印刷機前で組合員らによって貼られたと思われる同月一日から実施すべき機付人員配置を示した会社掲示物をおおい隠している刷損紙を撤去しようとしたところ、他の組合員とともに該職制を取り囲み、罵声を浴びせるなどしてこれを妨害し、会社の秩序を乱した。
<15> 同日午後二時ころ、印刷職場(紙、油及び溶剤等を扱っている火気厳禁の職場である。)において、タバコを吸っていた組合員御前に対して、職制の一人が注意をしたところ、他の組合員とともに、同職制を取り囲んで大声をあげ、抗議を行って会社の秩序を乱した。
(2) 被申請人主張のその余の懲戒事由について
<1> 被申請人は、一月二四日午前八時三五分ころ、印刷職場で課会が招集されたにも拘わらず、他の組合員を指導してこれをボイコットしたと主張するところ、右主張の日時に課会が招集されたことは当事者間に争いがなく、また、疎明によれば、職制が組合員一人一人に課会への出席を呼びかけた際に、それの中に遮断するように入ったり、大声を出していたことは一応認められるが、本件疎明上、谷口らの指導によって、他の組合員が課会をボイコットしたことを認めるに足りる疎明はないし、右認定事実から、直ちに他の組合員の課会ボイコットが谷口の指導によると推認することも困難である。
右主張は理由がない。
<2> 同日午後一〇時ころ、二号機側印刷職場入口において、職制が職場巡視に行こうとした際、勤務外であったにもかかわらず、約一〇名の組合員とともに、右職制を取り囲んでこれを妨害し、会社の秩序を乱したとの主張及び同月二五日午前一時一五分ころ、職制二名が職場巡視のため事務所を出たところ、勤務外であったにもかかわらず、他の組合員約一〇名とともに右職制を取り囲み、罵声を浴びせるなどして、職場巡視に行くのを妨害し、会社の秩序を乱した。との主張については、前記(一)(2)<6>と同様の理由によりこれを認めることができない。
右主張は理由がない。
<3> 二月二日午前四時二〇分ころ、二号印刷機操作盤前で福岡部長が同操作盤の上に乗せてあった印刷物を撤去しようとした時、同部長が出した手をつかみ、ねじ上げるという暴力行為を行ったとの主張、同月三日午前四時四〇分ころ、一号印刷機付近で、機械停止の状態を点検しようとした福岡部長を両手で突き飛ばしたとの主張及び同日午後一〇時一五分ころ、印刷職場で機械を目視していた職制を、他の組合員とともに、勤務外であったにもかかわらず、取り囲み、罵声を浴びせて、その業務を妨害し、会社の秩序を乱したとの主張については、他の目撃者からこれを聞いたとする伝聞の疎明があるのみで、行為の具体的状況、態様及び被害の程度については、本件疎明上これを認めるに足りる的確な疎明はない。
右主張はいずれも理由がない。
<4> 被申請人は、前記(1)<1>認定の日時場所において、谷口が松岡専務の右腕を殴打したと主張するが、本件疎明上、右事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
右主張は理由がない。
<5> 被申請人は、前記(1)<2>認定の日時場所において、小玉製作部長に鼓膜破裂の傷害を与えたと主張するが、本件全疎明資料によっても谷口の行為により右傷害を発生させたと認めることはできない。
右主張は理由がない。
(三) 懲戒事由に対する申請人らの主張について
(1) 申請人らは、前記認定の、(一)(1)<1>ないし<4>及び<6>、(二)(1)<1>に関し、これらの行為は、社長年頭挨拶に対する集団による抗議並びにこれを含めた労使間問題の団交の申入れであって、正当な組合活動である旨主張する。
しかしながら、前記認定の社長年頭挨拶は、その内容からみて、単に抽象的に今後の大阪オフセットの経営に関する姿勢を示したにすぎないものであり、このような社長年頭挨拶は何ら労使間の団交の議題となりうるものではないしその申入れの態様も、多人数で大阪オフセットの事務所内に乱入し、あるいはその施設内において、居合せた役員職制らを取り囲み、怒号を浴びせる等していることに鑑みると、申請人らの前記認定の行為は、誠実な協議の申入れとしては手段、方法において妥当性を欠く不法なものといわざるを得ないから、これを正当な組合活動であるとは認めることができない。
(2) 申請人らは、前認定の(一)(1)<7>及び<8>の行為は正当な抗議活動であると主張するが、組合掲示板以外へ該内容の掲示をすることは、明らかに会社の施設管理権を侵害するものであり、右<7>に関しては、申請人らは会社の猶予期間を定めた撤去要求に従わなかったことでもあり、また、右<8>に関しては、再度の掲示に対する撤去であるから、猶予期間を定めた撤去要求がなかったとしてもその撤去行為が違法となるとも解されないから、これらを併せ考えれば、いずれもこれを正当な抗議活動(組合活動)であるとは認めることはできない。
(3) 申請人らは、前記認定の、(一)(1)<9>ないし<12>及び<15>、(二)(1)<3>、<6>ないし<8>及び<13>に関する申請人らの右各行為は、違法な五項目改善案を実施する業務命令に対する抗議及び対抗措置として行われた正当な争議行為であると主張するので、まず、五項目改善案についてみるに、(イ)時間内入浴の禁止については、本件全疎明資料によるも、大阪オフセットの印刷職場が作業終了後時間内入浴を常に必要とするほどの汚染職場であるとは認めることができず、勤務時間内の入浴が事実上継続して行われてきていたとしても、それをもって、慣行として労働条件が確立していたということができない。(ロ)無断人員配置の禁止については、そもそも各職場への人員配置は、本来会社が行使すべき正当な人事権の範囲内に属するところのものであって、これの行使にあたっては、各人の経験、能力及び当日の機械の調子や仕事量など様々の要素を勘案して決定することとなるから、組合による無断人員配置が許されないことはいうまでもない。(ハ)無断交替休憩の禁止、出退勤管理の厳正化及び無断減速の禁止をする行為については、事柄の性質上、会社の正当な労務管理権に属するものであって、正当な行為といわざるを得ない。
右によれば、五項目改善案自体に何ら違法はなく、加えて、前認定の事実によれば、大阪オフセットは、五項目改善案実施前に、組合との間で数回の団交を開き、誠実な協議をしようと努力してきたことが明らかであるから、右五項目改善案実施の業務命令は適法、有効であるというべきである。
そうだとすると、申請人らの右各行為は、右適法な業務命令を阻止しようとしたものであり、しかも前認定にかかる行為の各態様からすれば、これを正当な争議行為と解することはできない。
(4) 申請人らは、前認定(一)(1)<12>及び(二)(1)<9>の行為は、いずれも不当な業務命令を強行せず、団交で解決するよう要求したものであり、併せて、右<12>については、(ⅰ)は佐竹組合員の負傷を労災として取り扱うよう申し入れたもの、(ⅱ)は組合事務所への電話設置を会社が妨害したことに抗議したものであって、いずれも正当な組合活動の範囲内の行為であると主張するが、前記各行為は、その日時からみて、いずれも、時間内入浴のため早期に機械が停止されるのを防止するため、職制が職場巡視に赴こうとするのを妨害したものであるとみるべきであるところ、先に述べたとおり、勤務時間内入浴禁止の業務命令は正当、有効なものであって、団交申入れ名下になされた前記妨害行為は、これを正当な組合活動であるとすることはできない。
(5) 申請人らは、前認定の(一)(1)<13>及び<14>、(二)(1)<10><11><14>及び<15>の各行為は、新職制の任命あるいは人員配置が組合対策のためになされた不当のものであり、かつ、前記昭和五二年六月六日付協定にも違反して無効なものであるから、これに抗議するためになされた正当な行為である旨主張するが、本件疎明上、右主張を認めるに足りる疎明はないし、むしろ、印刷職場では、四班あるのに、従前は二名の職制しかいなかったことが疎明されるから、該人事には合理性があるというべきである。したがって、申請人らの右各行為は、会社の正当な人事権の行使を無視してなされた違法なものであって、組合の抗議行為として正当な組合活動にあたると解することはできない。
なお、右(二)(1)<15>については、職制が一号機スタッカーで監視業務についていた組合員になんくせをつけたためこれに抗議し、同時に印刷現場の混乱を解決するよう求めたものであって正当な争議行為である。また、スタッカーの監視業務については喫煙は許されており、灰皿も置かれていた、と主張しているが、本件疎明上、右主張を認めるに足る疎明はない。
(6) 申請人らは、前認定(一)(1)<16>について、右は、二月三日午後一時四〇分ころに、三村取締役が林組合員に足をかけ、押し倒すという暴力行為を加え、負傷させ、入院に至るという重大事件が発生したため、抗議に行ったものであって、正当な行為であると主張するが、林組合員の診断書は提出されているものの、同人がどのような状況のもとで負傷をしたのかについては的確な疎明がないため、右負傷が三村取締役の暴行によって発生したとまでは認定することができないから、右行為が抗議行為として正当なものであると認めることはできない。
(四) そこで、前記(一)(1)及び(二)(1)の各行為について、大阪オフセットの就業規則にいう懲戒事由該当性についてみるに、解雇理由たる懲戒事由はこれを限定的に解釈すべきこと申請人らの主張するとおりではあるが、右各認定の宮武及び谷口の行為は、前示のとおり、違法な集団による強硬な抗議及び団交申入れを頻回にわたって繰り返しているのみならず、正当な業務命令に違反してなされたものであって、その認定にかかる行為の態様、期間及びその回数等を勘案すると、その行為による業務妨害及び秩序違反の程度は極めて重大なものと認められるので、これらのことなども併せ考えれば、前認定の(一)(1)<1>ないし<4>、<6>ないし<9>、<12>、<15>及び<16>、(二)(1)<1>、<3>ないし<5>、<9>及び<12>の各行為は、就業規則一〇一条五号及び六号に、同(一)(1)<5>、(二)(1)<2>、<6>及び<13>ないし<15>の各行為は、同条五号に、同(一)(1)<10>、<11>、<13>及び<14>、(二)(1)<7>、<8>、<10>及び<11>は同条五ないし七号及び一五号に該当することが明らかである。
3 不当労働行為の成否
申請人らは、大阪オフセットは、組合を嫌悪してその弱体化を企て、新職制を導入するなどして着々と準備を整え、社長年頭挨拶にかかわる団交を拒否したうえ、団交等による実質的な協議を故意に放てきしてこれを経ることなく、緊急の必要もないのに五項目改善案を業務命令として強行実施し、挑発的な組合敵視運動を続け、ついに組合、争議活動を理由として懲戒処分を下したものであって、組合壊滅を目的としてなされた本件解雇は、不当労働行為であるから無効であると主張する。
しかし、本件解雇に至るまでの経緯はすでに述べきたつたとおりであり、大阪オフセットでは、昭和五八年の初頭には、同五二年ころからの職場規律のゆるみが恒常化し、生産量や生産能率も低下傾向となり、企業収支の著しい悪化も予想されるに至ったので、職場規律の厳正化等により立て直しをはかろうとの方針を立て、五項目改善案としてこれが具体化されてからは、三回の団交をもうけて組合とも誠実に協議をする努力を続けたが、これが平行線をたどって合意点に達することができないので、やむなくこれを会社案のまま実施したものであって、そこには、何とかして会社を立て直そうとする真剣な努力はみられるものの、何ら組合弱体化の企図を認めることはできないし、本件解雇は、前認定のとおり、職場規律を改善せんとする会社の正当な努力に対抗して行われた、違法な業務妨害行為の数々を把えてなされたものであり、これを大阪オフセットの当局者らの挑発の結果ともすることができない(申請人らは、本件紛争をめぐっては会社職制らも多数の暴行・脅迫行為を行ったと主張するが、そのほとんどについては的確な疎明がないし、職制と組合員との接触が認められる事実についても、むしろ、会社側は、申請人らの違法な業務妨害行為に対応してこれらの行動をとったとみるのが相当である。)から、本件解雇を不当労働行為であって無効であるとはすることはできない。
4 労使協定を経ていないとの主張について
申請人らは、昭和五一年九月二四日付及び同五二年六月六日付労使協定において、労働条件の変更については労使の協議を要する旨定められているところ、解雇は、労働条件の根幹に関するから、解雇するについては労使の事前協議が必要であるのに、本件解雇に関して、労使の事前協議を経ていないから無効である旨主張する。
本件疎明資料によれば、右主張のとおり、該協定書中には、労働条件の変更には労使の事前協議を要する旨の規定が存するが、右事前協議協定から、直ちに懲戒解雇について労使の事前協議を要すると解することも困難であるのみならず、本件疎明によれば、前記昭和五一年九月二四日付協定書中には、組合員個々の事由によらない経営上の理由による解雇のときは、組合と協議する旨の定めのあることが明らかであり、これからすれば、右主張の協定から懲戒解雇について、労使間の事前協議を要すると解することはできないし、本件全疎明資料によるも、被申請人に懲戒解雇をするにあたって組合との事前協議を経なければならないとの義務を認めることはできない。
申請人らの右主張は理由がない。
5 懲戒権濫用の主張について
先に述べたとおり、宮武及び谷口の懲戒事由は多数回かつ多岐にわたっており、その就業規則に違反する程度も、軽微とはいえないものが多いのであって、疎明資料によれば、組合員らの行った懲戒事由該当行為の態様は、必ずしも一様ではなく、宮武及び谷口は、その中でも主導的な位置をしめ、激しい行動を展開したことが認められるのであって、右両名に対する解雇処分の選択も恣意的になされたともいうことができないから、本件解雇は懲戒権を濫用して行われたものであると認めることができない。
申請人らの右主張は理由はない。
6 まとめ
以上のとおりであって、本件解雇は有効であるから、これが無効であることを前提とする宮武及び谷口の本件申請にはいずれも理由がない。
四 南川、武友及び森本の申請の当否
右申請人らは、同人らに対してなされた出勤停止の懲戒処分を無効であるとして、就業を禁止された一〇日間の賃金の仮払いを求めるものであるが、疎明資料によれば、組合は、二月一四日から三月一四日まで同盟罷業を行い、右申請人らもこれに加わっていたことが明らかであり、同人らにはそもそも右一〇日間の賃金請求権の発生する余地がないから、その余の点について判断するまでもなく、南川、武友及び森本の本件申請には理由がない。
五 結論
以上のとおりであって、申請人らの本件仮処分申請は、被保全権利について疎明がなく、事案の性質上、疎明に代えて、保証を立てさせることも相当でないから、いずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 石田裕一 裁判官 藤本久俊)
就業規則条項(抄)
第二節 懲戒
第九八条(懲戒の種類)
懲戒処分は以下に掲げる譴責、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇の5種類とする。
1 譴責 始末書をとり将来を戒める。
2 減給 譴責の上、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が当該賃金計算期間の賃金総額の十分の一を超えない範囲の金額を徴収する。
3 出勤停止 譴責の上、10日以内就業を禁止する。その期間の賃金は支払わない。
4 諭旨解雇 説諭の上、自発的に退職させる。
5 懲戒解雇 予告期間を設けず、即時解雇する。
第九九条(譴責)
従業員が、次の各号の一に該当するときは、譴責に処する。
1 無断欠勤、その他勤務に関する所定の手続もしくは、届出を怠り又は詐ったとき。
2 しばしば、遅刻、早退、欠勤したとき。
3 就業時間中、濫りに自己の職場を離れ、又はその他勤務怠慢で業務に対する熱意を欠くと認められるとき。
4 その他、前各号に準ずる程度の事由があるとき。
第一〇〇条(減給、出勤停止)
従業員が、次の各号の一に該当するときは、減給又は出勤停止に処する。但し、情状により譴責に止どめることがある。
1 業務に関する会社の指示に従わないとき。
2 許可なく会社の掲示を抹消、破毀又は撤去したとき。
3 許可なく会社施設内で、集会もしくは口演し、又は文書その他を掲示もしくは配布したとき。
4 職場内の秩序、又は風紀を乱す行為があったとき。
5 危険災害予防装置を取り外し、又はその効力を失わせたとき。
6 過失により作業を誤り、又は事故を発生し会社に損害を与えたとき。
7 監督不十分により作業を誤らせ、又は事故を発生させ会社に損害を与えたとき。
8 許可なく会社の物品を持出したとき。
9 許可なく会社の機械、その他の諸施設及び資材を私用に供したとき。
10 素行不良、その他会社の体面を汚す行為があったとき。
11 火気の取扱いを粗略にし、又は所定の場所以外において焚火もしくは喫煙したとき。
12 その他、前条各号の一に該当し情状が重いとき。
13 その他、前各号に準ずる程度の行為があったとき。
第一〇一条(懲戒解雇)
従業員が、次の各号の一に該当するときは、懲戒解雇に処する。但し、情状により諭旨解雇に止めることがある。
1 採用にあたり、事実を詐り雇入れられたとき。
2 会社の承認を得ないで、在籍のまま他に雇用されたとき。
3 正当の理由なく無断欠勤10日(その間の休日は算入する。)に及んだとき、及び勤務状態著しく不良にして改悛の見込がないとき。
4 業務に関する会社の命令に従わないとき。
5 会社の秩序、統制又は風紀を乱したとき。
6 上長並びに従業員に対し、暴行もしくは脅迫を加えたとき。又は、その業務の遂行を妨害する等の行為があったとき。
7 故意又は、重大な過失により会社に損害を与え、又は、業務の運営に支障を及ぼしたとき。
8 会社の信用を失墜させ名誉を毀損する行為のあったとき。
9 会社の経営に関する事項を、故意に歪曲して流布宣伝したとき。
10 会社の機密に属する事項を洩らしたとき。
11 許可なく会社の金品、資材、製品を持出したとき。
12 職務を利用して私利を図ったとき。
13 犯罪行為があったとき。
14 懲戒処分を受け、尚悔悟の見込がないとき。
15 故意に作業能率の低下、又は業務の妨害を図ったとき。
16 その他、前条各号の一に該当し、情状が重いとき。
17 その他、前各号に準ずる程度の行為があったとき。
第一〇二条(教唆者、援助者、企図者)
従業員が、次の各号の一に該当するときは、前3条に準じて懲戒する。
1 他人を教唆して、前3条の違反行為をさせたとき。
2 他人の前3条の違反行為を援助したとき。
3 前3条の違反行為を企図したとき。
第一〇三条(懲戒の加重)
第九八条各号の懲戒処分を受けた者が、その後1年以内に更に懲戒に該当する行をしたとき、又は同時に2つ以上の懲戒該当行為をしたときは、適用されるべき懲戒処分より更に重く罰する。
第一〇四条(告示)
懲戒処分は告示することがある。
第一〇五条(損害賠償)
従業員が、第九八条、第九九条の違反行為により、会社に損害を与えたときは、会社はこれを懲戒処分に処する他に、損害を原状に回復するに必要な費用の全部又は一部を賠償させることがある。当該損害賠償の責任は、退職後も免れ得ない。